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2016年6月11日 (土)

オーブ⑥

p.42

ボルヘス: おや、ここにいた女の子いなくなりましたか。

バーギン:ええ。

ボルヘス:それはよかった。まるですごいんです、あの子は。

バーギン:何かあったのですか。

ボルヘス:ええ、今朝やってきましてね、私はヒラー図書館にいたのです。
      そして終始あの機械を私にむけるのですよ。三十六枚撮ってしまったはずです。
      するとついさきほど飛び込んできて、さらに十数枚撮ったのです。

バーギン:写真をどうするのでしょうね。自分のためなのか、何か雑誌のためなのか。

ボルヘス:ある雑誌に送るつもりだといってました。まだわからないらしいですが。三十六枚撮りですね。

バーギン:ディ・ジョバンニと翻訳のお仕事をさなっておられたのですね。

ボルヘス:ええ、ええ、そうなのです。
      ところが、どうも、あんなふうにまわりに人がいると、意見をいったり話したりできなくて。

バーギン:お顔から五インチくらいのところで、あの子は撮していましたからね。

ボルヘス:ええ、まるで身体攻撃でした。そう、そんな感じでした。
      何というか、誰かにピストルをむけられているような。あの子が、ピストルをつきつけているような、
      でも全然やめないのです。
      すると、ディ・ジョバンニが奇妙な一計を案じましてね、ブエノスアイレスへ行けば、ほかにも
      写真に撮れる人たちがいると彼女にいってました。彼女はその考えにたいへん乗り気でしたね。

バーギン:作家の写真集でも作るつもりではありませんか。

ボルヘス:そうです、作家の。

バーギン:カメラは一種の鏡でしょうね。

ボルヘス:そのとうりです。

バーギン:永久的な鏡。

ボルヘス:私は鏡が怖いから、たぶんカメラも怖いのです。

「ボルヘスとの対話」晶文選書45 
リチャード・バーキン 柳瀬尚紀訳

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